tunamayoの日記

小説、エッセイ、経済書を中心に日々こつこつ。積読との戦い。

リチャード・パワーズ「幸福の遺伝子」

"彼女が幸せなのは遺伝子のせい?”

 

難民にも関わらず、どんな時でもポジティブで喜びにあふれたタッサ。

アメリカの大学で臨時講師として働くラッセルが目の当たりにする、

関わる人すべてに伝染していく幸せの驚異的なパワー。

 

ふとしたきっかけから、メディアは熱狂し、タッサの幸福ゲノムを巡って企業間の訴訟まで起こる。

 

物語をの語り手「私」がしばしば登場し、メタな視点で今後の方向について考えあぐねるという二重構造になっています。アメリカのポストモダン文学のひとつみたい。

 

文章が思いのほか読み進めにくい・・・・・。難解ではないけれど、一文ごとにひねりやウィットが効いていて、文字を追うのに時間がかかる。

 

結末がまさかな着地点で、しばらく放心してしまった。

タッサおそるべし。

  

 

幸福の遺伝子
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遠藤周作「海と毒薬」

戦後、F市の大学病院で行われた外国人捕虜の生体解剖実験。

罰はあれども、罪はあったのだろうか、と問う。

 

凄惨な医療現場を描くのかと思ってびくびくしながら読むも、肝心の実験はあっけなく終わる。実験から年月が流れたあとの東京郊外から始まり、関わった医師たちの個人的な体験記などが淡々と続く。

そのドライさが実験とつながっているのだけど、心を麻痺させているわけじゃなくて最初から心がない風に捉えられて救いがない。

 

従軍経験があるおじさんがガソリンスタンドのオーナーをしているなど、「戦後」という特殊な時代がたしかにあったことを街の息遣いで実感させる作品だった。

実験については、防ぎようもなく、これからも罪なき人は罰せられることを起こしていくのだろうと思えてわりと暗い気持ちになった。

 

海と毒薬 (新潮文庫)
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川上未映子×穂村弘「たましいのふたりごと」

絵になるおふたり。

 

「しゃぼん玉」「自己愛」「晩年」「エゴサーチ」などのお題をもとに自由に

話す。

いきなり「1.打擲」(ちょうちゃく)から始まり、自由な空気が醸されておりました。

 

川上未映子が攻めで穂村弘が受けの卓球を見てるような対談(笑)

「午後四時」というお題で、昼から夜に移行していく午後四時を、”あいまいな時空のおそろしさ”と表す詩人たち。そんな風に景色が見える感性にちょっと感化されて楽しい時間だった。

ウェブ上の文章をサクサク読んでるような、ほぼ日新聞ぽい読みやすさでした。

「物語と挿絵で楽しむ聖書」

とてもわかりやすい~

挿絵も少し現実離れしていてわけのわからないことが次々起こる聖書の世界と合っていた。

旧約聖書新約聖書ってこんなに違うんだとか、最後の晩餐では、椅子に座るスタイルじゃなくてみんなで横向きに床に寝そべって円形になるのが当時の宴スタイルだったんだとか。

 

それにしても、神への信心あるものには容赦なく与えて、奪う神さま(特に旧約聖書)、慈愛よりも強きリーダーって印象でした。

 

要約とはいえ、かなり濃い内容だったので細かいエピソードは読んでるそばから忘れてしまった。。

ユダの裏切りと十二使途の殉教(キリストよりひどい殺され方など)、ヨハネの黙示録のハリウッドばりの怒涛の展開などが印象的。第7のラッパが吹き終わると、キリストと思われる男児が誕生、また千年後に最後の審判によって死者が裁かれ新たな天地創造が始まるという。

どうやら、キリスト迫害時代(紀元90~95年)、ローマ帝国の腐敗と滅亡を前にして各地の教会に希望を与えるためのものだったみたい。

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森達也「神さまって何?」

自分が死ぬことを知ってしまったから、人は宗教を必要とする。

しかし、これは容易に転換する。

死への恐怖を和らげる宗教のシステムが時として生から死へのハードルを下げてしまう場合がある。

 

というメッセージに、テロを起こす側の気持ちが100分の1くらいわかった気がした。

死ぬことが怖くなくて、死後の世界での幸福を信じられるのなら、理性のフィールドを超えた世界が見えていてそれは常人には見えないから怖い。

 

日本人の特性は神さまの不在(=無宗教)によるもの説にも激しく同意。

 

1.集団の意見に同調しやすい

2.大きな権力にあまり逆らわない

3.あいまいな返事

 

遠藤周作「沈黙」に出てくる、「日本人は人間を超えた神の存在を理解できない」という宣教師の衝撃的なひとこと。代わりの道しるべとして身近な権力や集団の空気に従ってしまうのか。

 

そして、どんな宗教にも特殊性・普遍性がある。メディアで新興宗教が取り上げられると特殊性ばかり強調される一方、救いを求める人の思いに呼応する普遍性がキリスト教などのメジャーな宗教と同様にあるという切り口も言われてみれば納得。知り合いに新興宗教に入ってる人はいるけれど、頼らざるを得ない弱さや事情があったのかもしれないと思った。

 

神さまってなに? (河出文庫)

白川密成「ボクは坊さん」

ゆるりとした空気感のお坊さんが表紙の仏教エッセイ。

 

世界で唯一の密教学科のある高野山大学で学び、

四国で祖父のお寺(栄福寺)を継いだ白川さん。

 

生活と地続きのものとして仏教を落とし込んでいく実践的姿勢にしびれた。地元書店に新卒入社した経歴も異色。そののち、お坊さんとしての生活が始まり人の生死に立ち会うのだけど、エピソード紹介から仏教書の解説まで守備範囲広い。

 

引用されていた仏教書の中で、まさにそうだなと最近思っていた一節を発見。はるか昔に知恵のある人が言い切ってくれたことにじんわりした安心。いつの間にか近くにいる人たちから、その性格やものの見方をインストールしているよう思っていて。

「どのような友をつくろうとも、どのような人につき合おうとも、やがて人はその友のような人になる。人とともにつき合うというのは、そのようなことなのである」

 

ほか気になりポイント→

 

・「空」には「疑いの視線」が宿っている

「空」とは「関係性」のこと。あらゆるものが、他の存在の影響の中で生じているので、ひとつ、ひとつの個体には固定的、実体的な性質はない。

ふーむ。

・「保存装置」としての宗教

人が”あること”を思想し、ある地点にたどり着いた。それを長い時間残したいと思ったことから意図的に宗教の形を利用したということもあるのでは?と問う。

 

 

ボクは坊さん。
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大野更紗「困ってるひと」

大学院女子の難病エッセイ。なのに笑える。

元気な体がある以上、できることは日々後悔なくしてゆこうと強く思った。

 

大学院に進み、ミャンマーの難民問題について本格的に取り組もうとした矢先に免疫系の難病を突然発症。自身が難民化するということについての思いについても触れられている。

絶え間ない痛みと役所手続きとの戦いを軽快な語り口で語れる芯の強さ。同世代として言葉を失う。

 

つらいこと尽くしの病院でふいに訪れた春。桜の花びら舞うシーン。

お話の出口にどきどきした。続編も読みたく。